視力回復 TOPIX①

最近、ICL手術への注目度が高くなっています。ICLは、「Implantable contact lens」の略になりますが、目の中に挿入するレンズという意味になります。多くの著名人が手術を受けて SNS で情報を発信したことで、その人気に拍車がかかっているようです。そんな IC L 手術ですが、実際に手術で使用されるレンズには 3 種類のレンズがあるようです。レンズによって素材や機能に違いがあるようですが、一番知りたいのは手術後の視力で、次にレンズの機能なども気になるところです。どうせ手術を受けるのであれば安全性の高いレンズで手術を受けたいと思うのは当然のこと。レンズの種類によって、手術後の結果や手術後のリスクにどんな違いがあるのか紹介していきましょう。

眼内レンズはアクリル素材の実績が断然︕

ICL手術は、目の中にレンズを挿入して近視や乱視を治療する視力回復手術です。中には、老眼の治療もできるレンズもあるようですので、老眼で苦労されている方も手術が受けられるようになりました。目の中にレンズを挿入する手術としては、白内障手術が最もポピュラーであると言えますが、年を重ねれば誰にでも訪れる目の病気だからです。白内障手術は濁った水晶体を取り除いて眼内レンズを挿入する手術になりますが、白内障手術で使用されるレンズはアクリル素材で出来ています。白内障手術は全世界で行われていますので、眼内レンズの素材としてはアクリル素材が99.9%以上の断然の実績を占めています。IC L手術では、アクリル素材とコラマー素材のレンズがありますが、眼内レンズ素材の実績としてはアクリル素材の実績が圧倒的に多いのです。これは眼内で拒絶反応が少なく、長期的にレンズの機能が維持できることを証明してきたからだと言えます。

レンズ素材の違いで手術の結果に違いが出るの︖

眼内レンズの素材としてはアクリル素材が断然の実績を占めていることは理解いただけたと思いますが、ICLにはコラマーが使用されているレンズとアクリル素材が使用されているレンズがあります。ど素材の違いで手術後の視力やレンズの汚れ方に何か差があるのでしょうか。実際に手術を検討している人にとっては気になるところだと思います。ここでは、コラマーとアクリルの違いについて紹介します。

ICL手術後の視力に影響は︖

ICLにはコラマーが使用されているレンズとアクリル素材が使用されているレンズがありますが、最初に発売された IC L レンズはコラマー素材のレンズになります。ICL手術と白内障手術では、治療の目的が違いますし、レンズを挿入する位置にも違いがあります。白内障で使用されるレンズはアクリル素材が用いられていましたが、当時のアクリル素材はICL手術で使用する素材としては不向きな素材でした。何故なら、柔らかいレンズを作ることができず、レンズの柔軟性が課題の一つでした。これを解決したのがコラーゲンとポリマーを融合させたコラマーという素材です。このコラマー素材が登場したことで、ICL手術で使用できる柔らかいレンズが作れるようになり、ICL手術が誕生するきっかけとなりました。現在は、水分含有量が多いハイブリッド・アクリル素材が開発されたことで、コラマーを使用しなくてもICLの作成ができるようになり、合併症の抑制機能を持った新しいICLが登場してきました。すでにハイブリッド・アクリル素材を使用したICLレンズが登場してから 10 年ほどが経過していますが、海外の眼科学会でも報告されたように、どちらの素材でも手術後の視力に有意差がないことが証明されています。また、ハイブリッド・アクリル素材で作られた新しいICLレンズは、合併症の抑制機能も兼ね備えていますので、レンズの素材はICL手術の安全性を向上させることに関係していると言えるのではないでしょうか。

この記事は 「Journal of Refractive Surgery 2021年1月号」 に掲載された臨床研究の結果報告です。 この雑誌は世界的な眼科専門誌で、実際に、 レンズ素材の違いで手術後の結果には有意差がないことが報告されている論文になります。 また、 手術後の経過観察においても長期的に素材の違いによる有意差は見られないことが報告されています。

素材の違いでレンズの汚れ方に違いがあるの︖

ICL手術で使用されるレンズには、「コラマー」と「ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル」があります。どちらも、眼内で長期的に視力を維持できることが報告されていますが、コンタクトレンズは長い期間装用しているとレンズに汚れが付着します。汚れたコンタクトレンズを使用し続けると目の病気を引き起こす原因にもありますが、ICL手術で使用するレンズも、素材の違いでレンズの汚れ方に違いがあるのでしょうか?もともと、目の中には房水が循環しています。この房水は栄養の運搬と老廃物の排出の働きを担っていますが、この房水が目の中を循環することでレンズに汚れが付着しにくくなっているようです。ただし、何十年も前にに使用されていた白内障手術のレンズは、今とレンズの作成方法に違いがあり、汚れが付着することがありました。タンパク質の付着が汚れの原因だったようですが、現在はレンズの作成方法も違いますし、汚れが付着しにくく改良されているだけでなく、レンズの表面に汚れが付着しにくい加工が施されています。ICL手術で使用するレンズも同様に、汚れにくい工夫が施されていますので、目の中で長期的にクリアな視界を維持することができます。

レンズ素材の違いによるタンパク質汚れの比較

従来のアクリル素材

数十年前に使用されていたアクリル素材はタンパク質の汚れが付着してしまい、一定期間でレンズを交換するケースもありました。レンズも素材を型に流し込んで作成されていましたので、その作成方法もレンズ汚れを引き起こす原因とされていました。


ハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリル(プレミアムICL)

プレミアムICLには、このハイブリッド・ハイドロフィリック・アクリルが使用されています。汚れが付きにくく、長期的に視機能を維持することができます。また、レンズ表面を滑らかに仕上げるクリアサーフェイス加工が施されています。


コラマー(EVO+ICL)

コラマーは、コラーゲンとポリマーを混ぜ合わせた素材で、柔軟性のあるレンズの作成を可能とした素材になります。コラマーも汚れが付きにくい特性がありますので、クリアな視界を長期的に維持することができます。

3種類のICLレンズが発売されていると聞けば、それぞれのレンズにどんな特徴があるのか気になるところです。また、レンズの機能に違いがあるとなると、どのレンズで手術を受けるか悩むところです。海外の眼科学会では、どのレンズを使用しても手術後の視力に有意差は無いと報告されているようですが、目の手術を受ける側としては少しでも安全なレンズを選びたいのが正直なところです。ここからは、レンズの主な性能の違いを紹介していきたいと思いますので、参考にしてください。

日本で使用されている3種類のICL

日本国内では、3種類のI C Lレンズが発売されていますが、素材やデザイン、レンズの機能などが異なります。近視と乱視しか矯正できないレンズもありますし、近視・遠視・乱視・老眼にも対応できるプレミアムICLなどもあります。発売された時期によって実績に違いはありますが、後から発売されたレンズは、ICL手術の課題を克服する合併症の抑制機能が追加されていますので、安全性の面で優れていると言えます。特に、プレミアムI C Lは、合併症の抑制を考えた多くの機能が追加されていますので、実績を伸ばしているレンズとして注目です。

EVO+ICLレンズ(Sttar 社:アメリカ)

近視・乱視の矯正が可能

プレミアムICL(EyeOL 社:イギリス)

近視・遠視・乱視・老眼の矯正が可能

アイクリルレンズ(WEYEZER 社:スイス)

近視・乱視の矯正が可能

夜間視力に影響するレンズの光学径

レンズで物を見る部分が光学部になります。レンズにとって最も重要な部分であると言えますが、この光学部の直径(光学径)が、夜間視力(ハロー・グレア)の発生に大きく関係しています。人間の目は、明るい所で瞳孔が小さくなり、暗い所では瞳孔が大きくなって、入ってくる光(情報)の量を調整しています。そのため、暗い所で光学部よりも瞳孔が大きくなってしまうとレンズの周囲から直接光が入り込み、レンズの縁に光が反射してハロー・グレアの原因となります。レンズの光学径が小さい程、ハロー・グレアが発生しやすくなりますので、レンズを選ぶ際は光学部の大きさを確認することがポイントになります。

  • プレミアムICL

    レンズの光学径
    「6.6mm」

  • EVO+ICLレンズ

    レンズの光学径
    「6.1mm」

  • アイクリルレンズ

    レンズの光学径
    「4.65 ~ 5.5mm」

レンズに設けられたホールの機能について

ICL手術で使用するレンズには、レンズの中心に小さな穴が空けられています。これは、目の中を循環する房水の通り道を確保するために空けられている穴になります。少し前までのレンズには穴がありませんでしたので、ICL手術を受ける時は事前にレーザーで虹彩に穴をあける処置が必要でしたが、ホールタイプのレンズが登場したことで、レーザー処置が不要となり、患者の負担が軽減されました。中心のホールは極めて小さい穴になりますので、手術後の視力に影響はありません。また、新しく登場したプレミアムICLは、中心のホール以外にも白内障や緑内障の発症を予防する別のホールが設置され、合併症の抑制機能が追加されています。

プレミアムICL

セントラルスマートホール

光学部の中心に設置されたセントラルスマートホールは、房水の循環経路を確保して白内障の発生や眼圧の上昇を予防する役割を担っています。

マージンホール

光学部の上部に設置された2つのホールがマージンホールです。このホールは、手術後の白内障の発生を予防する役割を担っています。

ハプティクスホール:

レンズの支持部に設置された4つのホールが、ハプティクスホールになります。
このホールは、手術後の緑内障の発生を予防する役割を担っています。

EVO+ICLレンズ

センターホール

光学部の中心に設置されたホールがセントラルスマートホールです。このホールが設置されたことで房水の循環がスムーズになり、白内障の発生や眼圧の上昇を予防します。

アイクリルレンズ

センターホール

光学部の中心に設置されたホールがセントラルスマートホールです。このホールが設置されたことで房水の循環がスムーズになり、白内障の発生や眼圧の上昇を予防します。

レンズと水晶体には一定の距離が必要

ICL手術 では、レンズと水晶体との距離を確保することが非常に重要です。レンズと水晶体の距離が近いと、手術後の白内障を発症するリスクが高くなります。新しく登場したプレミアムICLは、レンズと水晶体との距離を確保するために、プレミアムカーブと呼ばれるレンズデザインが採用されていますので、白内障の予防機能を兼ね備えたレンズであると言えます。

プレミアム ICL

新たに採用されたプレミアムカーブで水晶体との距離を確保


EVO+ICL レンズ/アイクリルレンズ

レンズのサイズが合わないとどうなる︖

実際に手術で使用するレンズは、患者の目の大きさに合わせて用意してもらうことになりますが、レンズの種類によってサイズのバリエーションが違います。もし、レンズのサイズが合っていないと、手術後に目の中で傾いたり、回転してしまうリスクが高くなります。もし、乱視用のレンズで手術を受けた場合は、乱視軸ごと回転してしまうことになるので、見え方に大きく影響します。もちろん元に戻す処置が必要になりますが、明らかにレンズのサイズが合っていない場合は、レンズを交換するケースもあります。ここでは、3種類のICLのサイズに、どんな違いがあるかを紹介します。

  • プレミアムICL

    サイズバリエーション
    「13サイズ」

  • EVO+ICLレンズ

    サイズバリエーション
    「4サイズ」

  • アイクリルレンズ

    サイズバリエーション
    「3サイズ」

3種類のICLレンズの中で、レンズサイズのバリエーションが圧倒的に多いレンズは、プレミアムICLになります。プレミアムICLは、オーダーメードで作成するレンズになるため、目の大きさに適したサイズのレンズで手術を受けることができますが、その分だけレンズが準備するのに時間を要します。EVO+ICLやアイクリルレンズは、メーカーに在庫があればレンズを用意するまでの時間は短縮することができます。時間を取るかリスクを取るかという選択肢になりますが、大切な目の手術になるので、リスクを取ってまで時間を優先するケースは少ないと思います。何度もレンズの位置を修正したり、レンズを入れ替えるほうが時間もリスクもかかりますので、サイズのバリエーションにも注目する必要があります。

レンズを安定させるハプティクスの数

挿入されたレンズを安定させるのがハプティクス(支持部)という部分になります。3 種類のレンズは、少しずつレンズデザインに違いがありますが、レンズの安定性に関係するパプティクスの数にも違いがあります。プレミアムICLは、左右に3つずつ計6つのハプティクスがありますが、EVO+ICLと合いクリルレンズは左右に2つずつ計4つのハプティクスになっています。レンズサイズのバリエーションも少なく、レンズを支えるハプティクスも少ないので、レンズの安定性はプレミアム IC L が1歩リードしていると言えます。

  • プレミアムICL

    ハプティクス(支持部)
    「6つ」

  • EVO+ICLレンズ

    ハプティクス(支持部)
    「4つ」

  • アイクリルレンズ

    ハプティクス(支持部)
    「4つ」

乱視用レンズの違いについて

3種類のICLレンズには、乱視矯正に対応したの乱視用のレンズがありますが、レンズによって、乱視軸に合わせてレンズを傾けて挿入するタイプと、乱視軸をレンズ内にカスタマイズすることで、どんな乱視軸でもレンズを水平もしくは垂直に挿入できるタイプに分類されます。

プレミアムICL

プレミアムICLの乱視用レンズは、乱視軸をレンズ内にカスタマイズしますので、どんな乱視軸に対してもレンズを水平もしくは垂直に挿入することできます。そのため、レンズの安定性が高いことが特徴です。また、レンズを一定の方向で挿入できることによって、レンズを最も安定した位置である(0°もしくは 180°)で固定することができます。

EVO+ICLレンズ/アイクリルレンズ

EVO+ I C Lとアイクリルレンズ の 乱視 用レンズは、乱 視 軸に合わせてレンズを傾けて挿入します。このため、レンズが回転してしまうと乱視軸もズレてしまうため乱視用レンズの意味がなくなってしまいます。最大で 20 度傾けてレンズを挿入しますので、挿入されたレンズの安定性に欠け、手術後にレンズが傾くリスクが高くなる可能性があります。

新しく発売されたレンズは、合併症を抑制するための様々な機能が追加されています。手術後の視力はもちろんのこと、安全性や安定性の面で改良が加えられていますので、より進化したプレミアムICLは、ICL手術におけるレンズの選択肢として注目すべきレンズであると言えるのではないでしょうか。